November 28, 2014

ドンク仁瓶利夫と考えるBon Painへの道

Dscn09952


この本が日本の次の世代のパン職人にとって、どれほど力になることかと思う。

完成まで2年半。「あずかる原稿にはたくさんの怒りの爆発がありました。それだけの想いがあって書いています」。編集者の松成容子さんは言う。

ドンクの仁瓶利夫さんがこの夏に出版された『Bon Painへの道』。本の中にも出てくるベーカリーフォーラムに出席し、仁瓶さんのお話を伺ってきた。

Painすなわち、小麦粉と酵母と水と塩だけでできたパン。
日本語ではそれは一般的に、「フランスパン」と呼ばれている。

最近では「フランスパン」は日本の食文化に浸透したぶん「バゲット」「カンパーニュ」「リュスティック」などと分けて呼ばれるようになってきたし、パン職人も、さまざまな素材や製法を選択できる時代になってきた。

仁瓶さんがパン職人になった当時と比べたら、Painに関してどれほどの資料が揃い、技術を教えてくれる先輩が揃っていることか。

「あの時、こういう本があったなら」。
この本は、2007年にセミリタイアされて、時間ができた仁瓶さんが、Painに関して書き残しておきたいと思ったことが綴られている。

カルヴェル教授を始め、フランスから来られる職人さんに技術指導を受けるほか、本を頼りに手探りでパンを焼いた時代、その本にも問題があったという。とくに、専門用語を無理に和訳した昔の翻訳本からはイメージの変換ができず、結果的に間違って伝わることも少なくなかった。原書を読めば宝が埋まっているはずなのにというもどかしさ。仁瓶さんはその時わからなかった謎を数十年して、調べあげている。日本に間違ってひろまってしまったことがある。まだまだ発見がある。

フランスパンの近代から現代の歴史は、仁瓶さんが個人的に調べてきたことをまとめている。彼が学び、疑問に思い、調べ、納得した過程の道標を、読むひとは辿ってみることができる。間違いがあったら知らせてほしい、と仁瓶さんは言う。実用書に書かれた嘘や間違いは許せないのだ。

製造編にはドンクの職人たちに頼まれて、書き残してほしいといわれたこと、リュスティックやロデヴについて写真つきで詳説されている。仁瓶さんのリュスティックやロデヴは、わたしは今回含め何度か、いただく機会があったけれど、これが日々、食べられたら、買うことができたらどんなにいいだろう、と思う夢のようなおいしさだ。

小麦粉と水と酵母と塩、たったそれだけで、どうしてこんなにもさまざまな色の、さまざまな香りの、さまざまな味の、さまざまな食感の、さまざまなかたちのパンができるのだろう。

これからパンの製法も、名称のように、時代とともに少しずつ、変わっていくかもしれない。
でも、次世代のパン職人さんたちは、これを引き継いで、よりよくして、きっと、次の時代に渡してほしいと思う。

もはや本質的に「フランスパン」ではない、すでに日本に根付き始めた、日本のパン食文化のために。

Dscn1249


| | Comments (0)

October 28, 2014

第9回メープルスイーツコンテスト 日常性と芸術性の接点を極める

毎年、木々が紅葉するころ、カナダ大使館で行われる、メープルスイーツコンテストの表彰式。
世界から注目の集まる日本食を意識して今年からは和菓子にもメープルシュガー、メープルシロップの可能性をひろげるべく、東京製菓学校から和菓子の先生も審査員に迎えていました。

Dscn0793

今年のグランプリはパティスリー オ・グルニエ・ドールの加藤喜子さんの「楓の小路」でした。黒ビールを用い、大人の男性のためのアシェットデセールを意識したのだそうです。楓の落ち葉に初雪の風情が美しい。

Yoshiko_kato01

菓子部門の優勝はエコール・クリオロの中塚隆雄さんの「les feuilles d'automne」。伝統菓子ポンヌフをメープルとリンゴのコンポートでアレンジした作品。

Takashi_nakatsuka01

そしてパン部門の優勝はドンクの上田義貴さんの「ケベックの恵み」。これはメープルのブリオッシュで、シンプルに見えますが重層的にメープルを使い、ヘーゼルナッツプラリネを活かしているのだそうです。

Yoshitaka_ueda01

上田さんはドンクそごう横浜店のチーフ。「ケベックの恵み」はいずれそごう横浜店で販売を予定されているそうです。

Dscn08172

審査員、ポワンタージュの中川清明さんは「日々の努力や熱意を感じました。普段の環境との違いに苦労をされたことと思います」そして材料の組み合わせについて述べられました。材料の組み合わせについては他の審査員も言っておられました。

「メープルをたくさん入れれば香りは強くなるかもしれないが当然甘くなります。副素材の選び方や食感が勝敗を分けたのではないかと思います」ザ・キャピタル東急の安里哲也さん。

そしてシニフィアン・シニフィエの志賀勝栄さんは「入賞できる人というのは日常性と芸術性の接点を極めた方だと思います。芸術性というのは、イマジネーションと人間性。たくさん本を読んだり、いろんな環境に身を置くことで研鑽されてください」と。日常性と芸術性というのは志賀さんもいつも考えておられることなのだそうです。

それにしても、よどみなく、シンプルに、理路整然と話をされる志賀さん。
パンづくりだけではなくて、そのことばに、いつも心をつかまれます。

| | Comments (0)

October 25, 2014

ル・パン・コティディアン アラン・クモンさんを囲む食事会とインタビュー

10月10日に料理通信が主催する、ル・パン・コティディアンのアラン・クモンさんを囲む食事会に出席しました。

Dsc_8174

1990年、ベルギーのブリュッセルの小さな空間、たったひとつの(しかし14席の、大きな)アンティークテーブルから始まったル・パン・コティディアン。日本には2011年に出店、いまでは東京で、芝公園、オペラシティ、表参道、日比谷、東小金井、代官山の6店舗を展開しています。

ル・パン・コティディアン 芝公園(2011)

ル・パン・コティディアン 東京オペラシティ(2012)

Dsc_8201

会では編集長の君島佐和子さんの進行で、ル・パン・コティディアンについて、自分にとっての「プルーストのマドレーヌ」(懐かしの味覚)について、食で大切にしていることについて、など、アラン・クモンさんと食に関わる仕事をする人たち、料理通信の読者の方々との意見交換が行われました。

Dsc_8209

メニューはアペリティフにサーディンのセビーチェ、ヴィーガンディップ、メインにチキンポトフ、きのこのオーツ麦リゾット、デザートにタルト・タタン。飲物はラングドック・ルーションのアランさんのワイナリーでつくられるオーガニックワイン、RN13。これらすべてを、ル・パンコティディアンの数種類のパンと合わせて楽しみました。

Dsc_8220

Dsc_8205

じつは、今回のアランさん来日を知って、『わたしの素敵なパン時間』インタビューを申し込んでおり、会の前にお話を伺っていました。そこで、とても面白い気づきがありました。

Dsc_8210

それは、タルティーヌのことでした。

タルティーヌというのは、塗るという意味のtartiner(タルティネ)ということばから来ています。半割にしたバゲットにバターとジャムなどを塗ったシンプルなもののことです。

でも、最近、とくにル・パン・コティディアンのような店によって、チーズやハムや、彩り豊かな野菜などさまざまなものを載せた趣向を凝らしたタルティーヌがカフェなどでふるまわれるようになってきました。
参照:ル・パン・コティディアンのタルティーヌ

Dsc_8214

Dsc_8223

アランさんへのインタビューで、彼はタルティーヌをスシに例えました。それは、炊き方のきまった上質な飯に新鮮で上質な具を載せる、という意味において。

そのあとで、平日と週末、カフェと家庭、という時間や場所の違いによるタルティーヌの違いにわたしの質問が及んだ時、「こういう、ル・パンコティディアンのように最初から具が載っているタルティーヌはカフェのスタイルであり、家庭のそれはテーブルの真ん中にパンをドン、とのせて、家族それぞれがセルフで好きな具を塗ったり載せたりして食べるんです」、という答えが返ってきました。

それはまるで、日曜日の家族の団欒、手巻き寿司ではないでしょうか。
一方で、あの美しいル・パン・コティディアンのタルティーヌは、寿司職人がつくる握り的なものなのですね。

Dsc_8226

インタビューの内容はここでまた、ご紹介できたらと思っています。

Dscn0514

※ル・パン・コティディアンのレシピブックについてはこちらでご紹介しています。

| | Comments (0)

July 10, 2014

セドリック・カサノバのラ・ターブル・ユニーク

2

パリでオリーブオイルなどシシリア産の食材を扱う「ラ・テット・ダン・レ・ゾリーブ」のセドリック・カサノバさん来日に伴い、CREMAの勅使河原加奈子さんが明治神宮前のCook&Coにて開催したイベント「ラ・ターブル・ユニーク」に出席しました。

3

それは今後日本への輸出が予定されている6種類のシシリア産オリーブオイル、ハーブのブーケ、ケイパー、マグロのカラスミ、マグロのブレサオーラなどのテイスティングの機会でした。

6

セドリックさんはイタリア系フランス人で、「シルク・ドゥ・ソレイユ」で綱渡り芸人をして世界を巡ったこともあったそう。後に父方の故郷、シシリアで家族経営の小規模農家を助けたいという想いからこの仕事を始め、現在は60軒以上の農家と契約、古代品種や地元品種の自然農法のオリーブの生産から商品化、販売までを行い、アラン・デュカスなどガストロノミーの料理人を顧客に持っています。

5

「オリーブの実が木から離れた時からがわたしの仕事」とセドリックさんは言います。
オリーブオイルに大切なのは、木が健康であるということ、機械で絞る温度が適温であるということ。

4

セドリックさんの手がけるオリーブオイルのラベルには「フランチェスコさんの畑のビアンコリーラ種」といったふうに書かれています。シシリアのお年寄りはブレンドしたほうがボディがしっかりして長持ちするというけれど、単一品種で売るのはアイデンティティがはっきりするのだそうです。

まろやかなオイルの中に、青草のような、柑橘のような、苦み、酸味、甘味、いろいろな要素が感じられます。何が何に合うとかいうのは好みの問題で、料理人の感性、イマジネーション次第でさまざまな料理への展開ができそうです。

7

シシリアの家庭では4人家族で年間150~200リットルものオリーブオイルを消費するのだそうですが、日本人がどんなオリーブオイルをおいしいと思い、どのように愉しむかを知りたい、とセドリックさん。オイルの他にも、子供の頃から慣れ親しんだ味を携えてやってきて、スライスしたり削ったり、オリーブオイルをまわしかけたり、シンプルな一皿をつくっては、テーブルを囲む料理人や食のジャーナリストの感想に耳を傾けていました。

11_2

12_2

セドリックさんはシシリアの気候のもとで、旨味の濃縮されたドライトマトや、まるで干し椎茸のように見えるドライナスもつくっています。

8

オレガノやバジルの花束も乾燥させて商品にしています。葉ばかりでなく花も素敵に香るのです。ピエール・エルメはこれでマカロンをつくったのだとか。

セドリックさんの考える、シシリアの料理と日本の料理の共通点は、料理に2、3種類の味の柱が基本としてあって、それらが混ざりすぎていないこと。何の素材の味がするということがはっきりわかるところ、ということでした。

乾燥させた食材のほか、シシリアの塩で保存性を高めた食材もいろいろありました。

9

10

ケイパーは大きさ不揃いの無選別。7月になると虫がつくので収穫を急がなければならない。粒を揃えている時間がない、のだそうです。これをご飯にのせて、ペコリーノを削り、オリーブオイルをかけたご飯は絶品でした。

日本なのでパンでなくあえてご飯にされたそうですが、このテーブルで味わったものはすべて、パンにも合います。もちろん、パスタにも。

15

16_2

マグロはトンルージュ(クロマグロ)を3週間塩漬けしたブレサオーラをフェンネルとオリーブオイルで。

21_3

22_2

ソシソンは内臓なども含めて切り落としのマグロを固めて発酵させたもの。卵巣を天日干ししたカラスミもありました。

18

14

このあたりで日本酒が登場。日置桜の純米吟醸「強力」。さすが日本酒のお仕事にも携わっている勅使河原さん。フレンチやイタリアンにもお燗が、これからのトレンドになってくるかもしれません。

20

13_2

さて、コリアンダーとミントをニンジンで巻いてシシリアのフレッシュタイプではないリコッタチーズをかけ、レモンとオリーブオイルを絞った箸休め的な一皿など、初めてのような初めてでないような、記憶のどこかにある味だったけれども、「発芽するものは生でも食べる」と勧められた生のヒヨコ豆はかなり青い、初めての味がしました。

17

19

セドリックさんのラ・ターブル・ユニーク。どの食材にも素材の凝縮された旨味とそれを支える塩とオリーブオイルとシシリアの太陽の光を感じました。同席のシェフたちはきっともう頭の中で料理を始めていたはず。近い将来、これらの食材と料理人の感性でどんな一皿が創造されるのか、楽しみです。

最後に。最初のお皿に乗っていた一輪の薔薇のような食材は、ロゼッタペペロンチーノ。唐辛子なのだそうです。このセンス、ロマンチックでした。

1

| | Comments (0)

July 06, 2014

東日本大震災復興支援・第8回チャリティー製パン講習会

11

7月4日、日清製粉株式会社小網町加工技術センターにて、8回目になるチャリティー製パン講習会が開催され、受講料315,500円が「あしなが育英会東日本大震災津波遺児支援募金」に寄付されました。

講師は発起人でレギュラーメンバーの山﨑豊さん、伊原靖友さん、井上克哉さんのほか、今回は「クラブハリエジュブリルタン」統括シェフの小金井利嗣さん、「パン工房ぐるぐる」オーナーシェフの栗原淳平さんが務め、デモンストレーションが行われました。

チャリティー講習会はいつもの和やかな雰囲気でスタート。受講者からの挙手が多く、質問が飛び交うのがこの講習会の特長です。山﨑さん、伊原さんらが時々、要点をおさえた質問を講師に投げかけるすることで受講者は大事なポイントを見逃すことなく、スマートな進行役に、彼らは教えるプロでもあることに、あらためて感じ入ります。

12

井上さんの「気仙味噌パン」はイタリアパン用の「ルスティカ」を使用。フランスパン生地の発酵種とドライイースト併用で、短い発酵で仕上げます。気仙味噌20%使用。塩は入りません。やわらかなフォカッチャタイプの味噌パンは日本の食卓に馴染みそうです。

21

栗原さんは茨城県ひたちなか市でパンを焼かれています。「朝ご飯として食パンの代わりにもなる、こういうパンも広めていけたら」と吸水の多いパン・ド・カンパーニュとそのバリエーション(クルミとクランベリー)を紹介。「リスドオル」に「オーション」という灰分の高い粉をブレンドしています。個人的にとても好きな味でした。

24

チーズやネギの入ったフランスパンも紹介されました。10%のネギを生地に入れるときには、ネギから水分が出ないように手ごねします。その分ミキサーは他のパンに使えるという利点もあります。

22

23

栗原さんのもう一つのパンは、「ごはんぱん」。1kgの粉に対し0.5合の炊いたお米が入っています。お米は栗原さんのご実家「栗原農園」のもの。米を米粉にするのはお金がかかる。ならばご飯を湯種のようにして使ってみてはという発想から生まれたこのパンは、油脂にはラードを使用して伸展性よくコクを出し、乳製品と卵を使用せずに柔らかく食べやすいパンに仕上がっています。店ではヒジキや高菜などを包んだものも販売。この日はキンピラを包みました。

25

26

31

小金井さんの「プレシアンス」(フランス語で”予感がする”の意)はコンテスト用につくられたパン。手間がかかりすぎるので販売には向かないようですが、こういうパンの組み立て方があったのか、と息をのむおもしろさ、でした。

32

33

まず、型が個性的、と思ったら、セルクル、ボンブ(半球)型、コロネ型を組み合わせたものでした。チョコレートの菓子パン生地に合う甘味と酸味を考えてケフィアヨーグルトを使った牛乳種を用い、それをもとにした発酵種には出来上がったパンを冷やしてもかたくならないように液状ショートニングなども使っています。バターや加糖卵黄、生クリームやチョコチップ等々、多種類の素材を配合したチョコパン生地が、その型で焼かれ、冷やされ、うすく伸ばしてらせん状に切れ目を入れたデニッシュ生地をかぶせてさらに焼かれます。

34

35

36

仕上げはガナッシュクリームとグリオットチェリー。素材やレシピについての記述は他のパンの約3倍。ほんとうに、お菓子のようなパンでした。

37

38

小金井さんはこのほかに、クランベリーをはじめとするベリー類やリンゴを使った紅白の「Kotobuki」、ブルーベリーとイチジク、シャルドネと紅茶を使った「シャルドネ・ダージリン」を実演紹介しました。

39

310

311


ランチタイムには、山﨑さんのとうもろこしのチャバタ、海藻のパン(やきまつも、ふのり、しょうゆ、餅粉入り)なども並びました。伊原さんは今回、陸前帆立を贅沢に使ったクラムチャウダーやチキンのハーブ焼き、サラダにはグレープフルーツたっぷりのドレッシングなど、パンに合わせる料理を担当されました。

13


今回は「希望のりんご」プロジェクトを主宰される池田浩明さんの提案もあり、東北の素材が意識的に使わたことも、とてもよかったと思います。

今後も山﨑さんらによるチャリティー講習会は続きます。10月には名古屋、11月には京都での開催が予定されています。

【Bread Journal及びAll About取材による過去のチャリティー関連記事】

第5回 2013.2

番外編(3人のシェフによるパネルディスカッション)2012.8

同(Bread Journal Facebook)

第4回-1 2012.7

第4回-2

第2回 2012.3

第1回 2011.8

| | Comments (0)

July 02, 2014

テレビ静岡「静岡フードミュージアム構想」続編

テレビ静岡の「てっぺん静岡」番組内で「静岡フードミュージアム構想」なるコーナーの続編があった。
「マルコ・デュ・パン」という店の職人さんたちが、静岡食材を使ったご当地パンの商品開発に挑む。

先日もここで書いたけれど、わたしは、京都でパン教室をされている内村浩一さんと、パンの愛好家の片山智香子さんと、審査員として出演させていただいた。

Dscn0392

ご当地パンとして選ばれたのは井上聖士さんの「ニューサマーオレンジブリオッシュリング」と吉村祐美子さんの「静岡産やぶきた茶の富士山カンパーニュ」。ふたりとも、技の光る職人さんだ。

商品である限り、売れなければ始まらない。選ばれたふたつは、お客さんの反応を見るということで前宣伝なく店頭に並んだ。予測通り、カンパーニュが、慣れない見た目と買いにくい価格で苦戦していた。でもそのあと、機転をきかせた店長の指示で、ブリオッシュはプチサイズで、カンパーニュはカットすることで、より多くのお客さんに買ってもらうことに成功した。

言い訳だけれど、わたしはテレビで話すのが得意ではない。瞬発的に的を得たことを言って伝える難しさをいつも思う。で、今回も終わって、おそらくカメラが回っていないときに、カットしたりプチサイズで販売してはどうかという提案をしていたのだけれども。

7月1日に放送された番組で、ほぼ完売したときに店長が「清水さんでしたっけ。パンはシェアするものだからって。それをヒントにしたんです」と言ってにっこりとしてくださったのをみて、胸が一杯になった。

Dscn0701

片山さんには前回、「こんなに熱くなる清水さん、初めてみました」と言われた。
それは、吉村さんのカンパーニュがおいしかったので、「マルコ・デュ・パン」は石窯パンのお店なのだし、こういうパンをもっとつくって、静岡のひとに食べてもらわなくちゃ!と、そんな気持ちになったからだった。

井上さんのニューサマーオレンジのパンは見た目もはなやかで、きっと誰もが好きな味。でも吉村さんのパンは、見た目では想像がつかないかもしれない。購入は冒険になってしまうのだろう。こういうとき、ことばが必要になってくる。

Bread Journalの読者に説明するなら、こんな感じのパンだ。

北海道産の小麦粉に富士山の天然水で水出しした静岡のやぶきた茶で仕込んだ高加水のカンパーニュ。中には、ほのかに甘く、ほろ苦い特製の茶葉ペーストが練り込まれ、お茶の存在感を出している。

ニューサマーオレンジは季節があるので、自家製のピールが切れてしまったら終わりで、通年は難しい。それもいいと思う。来年はニューサマーオレンジをいっぱい仕込めるといいな、と思う。そしてカンパーニュはゆっくり定番化、するといいなぁ。

それにしても、テレビのひとも、パン屋さんも、静岡への地元愛が感じられる番組だった。ほのぼのと、みんなを幸せにする感じの。

なんでも早く安く簡単にの時代にあって、数か月かけてひとつのパンを生み出そうとする職人さんの、そして、そのパン屋さんに通い詰めてこんな番組をつくる制作会社のひとたちの、丁寧な仕事を想った。

このひと月ばかり、貴重な体験をさせてもらいました。

| | Comments (0)

June 12, 2014

再び、ルーエプラッツ・ツオップにて

Dscn0168

朝日カルチャーセンターの講座「美味しいパン屋さんめぐり」。
前回は二子玉川のドンクへ、今回は再び松戸のツオップへ。

前回のように、ライ麦や全粒粉、ディンケル小麦のパンなど普段あまり味わう機会のすくない種類を、料理とともにテイスティングしていただきました。

ツオップの店長でパン職人の伊原靖友さんのお話はおもしろく、これは、ドンクの茶山さんも、VIRONの西川さんや牛尾さんのときもそうでしたが、彼らが話し始めると受講者の方々が目を輝かせるのがわかります。わたしも志のあるオーナーや職人さんの話を聴くのが、本当に好きです。

年初より朝日カルチャー講師を務めさせていただくことになり、All AboutやBread Journalをご存じない方や「パン愛好家」「パン好き」ではない方がたとの出会いがありました。

興味の赴くままにいろいろな講座を受講されている方のなかには、ご自身が大学の先生をされていた方や、ご自分でもパンを焼く方や、看護師さんや、大病から復帰されたばかりの方や、新幹線に乗ってはるばる来られた方や、ほんとうにさまざまの方がいらっしゃって、わたしにとっても新鮮な体験でした。出席された方に、パンについての、小さくても何か素敵なきっかけをお持ち帰りいただけていたら、何よりです。

ルーエプラッツ・ツオップは本当に居心地がいいのですが、年内か来年か、ディナータイムの営業も始まるそうで、楽しみです。

Dscn0174

壁にかかる絵もよかったので教えてもらいました。オーストリアの画家で建築家のフリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーだそうです。日本でも彼の建築作品がいくつか残っています。

パンを撮影するのでも、背景に見える食器や雑貨ひとつひとつが、お店作りのためではなくてどちらかというと個人の嗜好で選ばれていて、それはおもにマダムのリエさんのセンスなのですが、この空間の居心地をよくしている要因のひとつだと思います。

Dscn0165

この日はここで、子供向けの本にも出合いました。
『パンができるまで (すがたをかえる たべものしゃしんえほん 5) 』(岩崎書店 宮崎祥子著白松清之撮影)。これはツオップが全面協力して、パンができるまでを写真で追った、かなりまじめな、わくわくするような、子供向けのパンの本です。

300種類ものパンを焼きながら、さまざまな人と出会い、お客さんはもちろんのこと、習いに来るひとにも、同業者にも、メディアの人間にも、「パンと何かいいもの」について日々いろいろなかたちにして伝えている伊原さん夫妻は、わたしの自慢の友人であり、また、先生でもあります。

これで朝日カルチャー講座は一旦終了です。
お会いできた皆さまに感謝しています。ありがとうございました。


| | Comments (0)

June 04, 2014

第5回辻静雄食文化賞

Dscn01282

6月3日、明治記念館で第5回辻静雄食文化賞の贈賞式が行われました。
辻静雄食文化賞とは、辻調グループ校の創設者、辻静雄さん(1933~1993)の志を受け継ぎ、食文化の発展に貢献した人の活動や作品に贈られる賞です。

Dscn01152

第5回辻静雄食文化賞受賞は書籍と映画に贈られました。

書籍『食と建築土木』著:後藤治 二村悟、写真:小野吉彦(LIXIL出版)と
映画『ある精肉店のはなし』監督:纐纈(はなぶさ)あや 

Dscn01332

『食と建築土木』は日本の豊かな村の風景、「たべものをつくるしくみ」たとえば柿を干す柿屋や大根櫓など23点を建築土木の観点から記録した本で、日本の自然と食文化の関係性を描いています。現代の食についてあらためて考える機会となりそうです。

二村さんは工学院大学建築学部の教授。二村さんは客員研究員。
個人的な話で分野は違うのですが、十数年前ほんの少しの間、工学院大学建築学部でお手伝いをしていたことを思い出しました。これは拝読しなければと思います。

Dscn01322

『ある精肉店のはなし』は江戸時代から続く歴史に幕をおろした大阪の小さな屠場、北出精肉店の記録。大量工業生産化が進む一方で、静かに続く職人技の記録でもあります。

「暮らしを撮るにはお客さんとしてではなく現場で自炊して」北出さん一家と食事をともにしながら撮影をしたと言います。「現場の人たち皆に賞を貰えたような嬉しさ」と涙ぐむ纐纈監督の仕事に心を打たれました。また、いまだに偏見のある目で見られることもあるこの仕事を誇りをもってされている北出さんの「命あるものをいただく、ということを自覚しながら生きて行く」と淡々と語られたその言葉、その仕事。この方もまぎれもない、素晴らしい職人さんだと感じました。

このドキュメンタリー映画『ある精肉店のはなし』は、7月4日(金)、小金井市民交流センター小ホール(JR武蔵小金井南口)にて上映予定だそうです。

Dscn0138

そして、現場で第一線で仕事をされて日々、人を感動させ、さらに精進を続けている方に贈られる専門技術者賞には大阪「本湖月」の穴見秀生さんと京都「未在」の石原仁司さん。
偶然、お二人とも吉兆におられた料理人でした。

「本湖月」の穴見さんは1969年からパリでJALの機内食を作っていたそうですが、辻静雄に「せっかくフランスにいるんだからおいしいものを食べなさいよ。ギャラを残すことはないよ」と言われてギャラを全部お腹の中に収めたのだそう。そんなエピソードがいくつかあって、会場に笑いを湧かせる、とてもチャーミングな方でした。
「身体がある限り、素敵な日本料理を皆さまに、メッセージとして送っていきたい」という穴見さんの店は『ミシュランガイド関西2014』まで、5年間二つ星を継続されているそうです。

Dscn0139

「未在」の石原さんは残念ながら欠席でしたが、お店は東山の円山公園にオープンして10年。『ミシュランガイド関西2014』まで5年間三つ星を継続されているそうです。

「本湖月」と「未在」。わたしは茶道の稽古をするなかで、茶懐石についても大変興味を持っています。いつか勉強に、いや、それよりもたぶん、料理を愉しみに伺うことができたら素敵だなぁと思っています。

この賞は毎年開催されていて、推薦もできるようになっています。
毎年素晴らしい方々や作品との出会いのきっかけがあるので、これからも注目していきたいと思います。

第4回辻静雄食文化賞
第3回辻静雄食文化賞
辻静雄食文化賞公式サイト

| | Comments (0)

February 20, 2014

ルーエプラッツ・ツオップにて

朝日カルチャーセンターの講座「美味しいパン屋さんめぐり」。
前回は有楽町のセントルへ、今回は松戸のツオップへ。

Dscn8512


2階のカフェ、ルーエプラッツ・ツオップで店長の伊原さんにパンのお話を伺いながらライ麦パンをはじめとする食事パンと、それに合う料理を愉しむ、という内容。

日本にあるさまざまなパンの上質な縮図のような300数種類の中から、買ってそのままかじって即食事、になるわけではないもの、スライスしたり、何かとあわせて食べるほうがおいしいもの。名前がドイツっぽくて、見た目は質実剛健で、どんな味がするのか、なれるまで想像しにくいもの。大きなかたまりから切り分けて買うのがおいしく、普段ちょっとテイスティングする機会がないもの。それを、いろいろに味わっていただく。

パンの食べかたにとくに決まりはない。
どれとどれを合わせて食べないといけないということはないので、してみたいようにする、トライあるのみ。食べかたを学ぶ、というより、未知の味を体験していただく機会と思っている。そして感じたこと、おいしかった理由を、即、説明してあげられる場。

Dscn8515


メニューが素敵だったので記しておく。


ウエルカムドリンク 

ホットワインまたはホットレモネード

パン

ディンケルミッシュブロート
ゲズンド
セレアル
ヨーグルトライ
ベルリーナラントブロート
フォルコンブロート
Zopfバゲット
パンオフリュイ
バターロール
クロワッサン
(最後の二つは、ツオップのその他のパンの試食として。
このほか、新作のパンオノアも登場)

メイン料理 

ポテ(塩豚のスープ)と野菜料理(ショウガとにんじんのソテー
根セロリ、ポテトサラダ)の盛り合わせ

飲みもの(食事の途中にもソフトドリンクのサービス)

フィキシング

セミドライトマト
豚のリエット
レバーペースト
はちみつバター
黒糖ラムバター

デザート

自家製のビスコッティ入りティラミス
飲みもの

以上。(やはり、オオバンブルマイ)


前回も今回も、食事を受講者の皆さまと一緒にとるよう言っていただいていますが、なかなか、座って食事をするタイミングがつかめず、いつも時間いっぱい立ったままお話をしてしまい、お店の方にも、いつも本当にお世話になっています。

セントルで西川さんと牛尾さん。ツオップで伊原夫妻。
2時間ちかく食事をしながら、このひとたちのお話を聞くことができる。
朝日カルチャー講座の、スペシャルランチ。

わたしはつくづく、Bread+something goodのなかの、+のところにいるのだな、と思います。皆さまに、感謝しています。

1897932_804008856295830_1724994935_

そんなわけで、終わってから、座って、
申しわけないことにまた冷めてしまったスープを温め直していただいてひと息。
冬のスープはうれしい。

大勢で一度に同じものを食べることになり、数が足りなくなったスープボウルをオランダから、店長夫人のりえさんがわざわざ取り寄せてくださった。下に敷いてあるのは、りえさんのお母さまのお手製。温かさが、からだにしみ渡っていきました。

Dscn8530

そして帰りに買ったパン。ハード系は紙袋にいれて、保存用の袋もすべてにきちっと入っている。おもてなし、という言葉が浮かぶ。

さて、3月8日のイベント申し込みは明日からです。
ツオップのパンとなにかいいもの、についてもただ今、準備中です。


| | Comments (0)

January 25, 2014

『パンの文化史』舟田詠子さんのこと。

1998年に朝日選書で出版された舟田詠子さんの『パンの文化史』が講談社学術文庫で復刊されたのを記念して、先日、上智大学で小さな講演会がひらかれた。

Dscn8274

『パンの文化史』を初めて読んだ頃は、パンのことを書いていくにあたって、自分はパンの何を伝えたいか、いろいろな角度からパンを眺めていた時期だった。先にも書いたように、世界中のパンの名前を冠した創作パンをお店で買って食べることから始まっている日本のパン食文化について疑問に思ったり、そのルーツを知らないでつくったり食べたりするのは無責任だと感じていたので、この本は常にデスクに置いていた。

今回の講演会では先生の研究者としての姿勢に心を動かされた。今までも先生のこと、「女探偵」などと書いたりして来たけれども、その探究の道の先々で、不思議な出来事や出会いがある。それは何か大いなる存在が先生に、研究を続けなさい、と仰せになられているような。ものごとを真剣に究めてゆくと、その力が世界を動かして、偶然が必然になるような瞬間が訪れることがあるのかもしれない。

スイス人のパン研究家、マックス・ヴェーレン博士の著書を翻訳し、それがなんて面白いことかと上智大学の史学科の教授に話した際、「自分で研究されたらもっとおもしろいですよ」と言われたことが、先生を研究者にした。後に先生はマックス・ヴェーレン博士に師事する。

「パンというものはわたしにとって、作ったり食べたりしている今のこの時間だけではなくて、想像もつかないほど古代から作り始められて脈々と続けてきた結果なのだ、と思い立った時、大事なことを書き記しておこうと、パンの文化史の仕事を始めました」と先生は言う。

パンの歴史は古代から今日まで麦の品種改良の歴史。より粒の多いものを、病気にならない丈夫な麦を。そして製粉や発酵や焼成の技術の発達の歴史でもあった。古代から絶えず人が研究してきて、現代の我々が受け継いでいる。途絶えさせてはいけないもの。先生はそのように考える。

Dscn8271

講演は『パンの文化史』の最後に付いている分厚い参考文献、注、図版リストなどの付録の話から始まった。

学問の流れは古代から川のように流れている。自分がどこの川のどのへんにいて、どこへ向かって流れているのか、把握しなくてはいけない。先人が研究したことに書き加えていき、後の人がどこまでもそれを辿っていかれるよう、本に書かれた事実について付録に記す。これはとても大事で研究書にはどうしても必要なものなのだという。

いまはインターネットの時代。なかに掲載された白黒の小さな写真を、皆さんはご自分のパソコンで検索して、大きな写真でご覧になってくださいね、という。本を横に置いて、興味を惹かれたものを自分で辿っていくならば、わたしたちはにわか研究者のあるいは探偵の気持ちをひととき、持つことができそうだ。

パンの研究を始めた頃、先生はスイスで6本のひも状の生地を編む、編みパンを教わった。「そのパンをいつ誰が始めたかわからないけれど、遠い日本から行ったわたしの手が、そのパンの作り方をおぼえた、自分の手に入ったことが、感動だった」そういうふうにパンの技術をおぼえたり、パンの味を知って、今がある。

シュトゥットガルト大学の先生でスペルタ小麦(スペルト小麦、ディンケル小麦)について植物学的に一番知っていると思われる人に会いに行き、泊まりがけで教わったこともあった。

「ヒトとムギの歴史はこのように一万年あまりになる。この悠久の時を縫って、私たちの祖先はムギを選び、栽培し、種を保存してきてくれた。ムギはまさしく地球の遺伝資源。人類の大いなる遺産。そしてパンはその果実である」(文中より)

マックス・ヴェーレン博士に直接師事し、すべての著作を読み、古代遺跡から出土するパンや壁画の見方も教えてもらった先生だが、自分の関心がパンそのものではなくパンを食べる人間だということを認識する。
「パンの文化史という本を書いているけれど、わたしは人間を書いているんですね。パンは人間が食べるためのもの。健康を維持し幸せな生活をするためにある。だから人間を書いているんです」

そして先生はさらに進んでいく。

一番最初に人間が考えたパン焼きの方法といわれている、ベドウィンの灰焼きパンを、先生は実際にやってみる。灰をかぶせて火を通すのだ。食べた人は皆「灰がなければおいしいのにねぇ」と言う。「古代の人もそう思ったことだろうと思いますよ。やってみるとわかるんです。そしてボウルをかぶせてその上に灰をのせるといいとか、おいしいパンを焼く方法を考えて行くんです」。円錐形の型を使って、古代エジプトの人のようにパンを焼いてもみる。古代エジプト人の気持ちを感じとろうと努力する。
ここはほら、探偵のようでしょう。犯人の気持ちになってみなくちゃ始まらない。

好奇心の先に、頑丈な扉が立ちはだかってしまうこともある。でも、先生はその扉の鍵穴をさがす。鍵を開ける方法を知っている。その鍵は語学と粘り強さと愛嬌と無邪気さを持った真剣さかと思う。怖いものなしだ。博物館で、外国の田舎の村で。

時代の移り変わりで消えゆく屋外のパン窯を撮るロケで、撮影隊が機材を運ぶ車が必要だった時、たまたまバカンスに来ていたドイツ人の建築家が運転手を務めることとなった。その出会いも偶然なのか必然なのかおもしろいエピソードだった。ロケに同行することになった彼はやがてパンの窯や道具を描いてくれることになる。
「おもしろい。なにしろおもしろいんですよ。すべてが」先生は目を輝かせながら言う。

先日お会いしたある職人さんもそう言っていた。「おもしろくて、仕事をしているって感じじゃないんです」天職に出会ったひとの言葉だと思う。

『パンの文化史』はパンの仕事に携わる人、パンが好きな人、すべての人に持っていてほしい本だと思う。先生がヨーロッパを巡って、大事なことを日本語で記してくれたことを、ほんとうに有り難いことだと思う。

| | Comments (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

All About日記 | daily bread | information | NEWS | others | REPORT | WORKS