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June 05, 2014

パンを無駄にしないイタリア料理

食のセンスある方々にパンの愉しみについて伺う『わたしの素敵なパン時間』 (日清製粉 「創·食Club」、NKCレーダー、NKCレポートにて連載中)第35回目はイル ギオットーネ オーナーシェフ、笹島保弘さんでした。

創・食Club会員及びNKCレーダー購読者の方のみご覧いただける記事ですが、許可を得てこちらでも全文ご紹介させていただきます。

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レストランにも家庭にもパンを絶対に無駄にしないための料理がいくつもある
笹島保弘さん/イル ギオットーネ オーナーシェフ

◇パンは、子供の頃は朝、今は夜の食べもの

おやじがコーヒー好きで、朝はご飯とみそ汁ではなくてパンとコーヒーという家だったので、子供の時からクロワッサンやブリオッシュを食べていましたよ。パンの他はコーヒーとサラダくらいなものですが、マーガリンじゃなくてバターだとか、ジャムもいくつかある中から好きなのを選ぶとかにこだわっていました。だから朝の記憶はパンとコーヒーの匂いですね。

今は意識的にきっちりと朝食をとります。空腹で料理して「わぁ、うまそうやなー」いう感じでお客さんに出したいんで、昼はなるべく我慢して、夜はパンとチーズとワインで一日の食事を締めくくります。今のぼくには、パンは夜中の食べものという感じですね。

ワインはピノノワール。ブルゴーニュのちょっと酸味のあるのが好きです。チーズはサンタンドレ、タレッジオ、パルミジャーノレッジャーノ。パンとチーズはご飯とお漬物みたいなもの。炭水化物と発酵食品を最後に食べるのは理にかなっていると思いますよ。料理人の集まりも夜中のことが多いですけど、そこでも皆でパンとチーズと赤ワインです。

◇パンと旨味

レストランのパンは、焼きたてで温かいことにこだわっています。焼く子らによって個性が出るのは否定しないけれど、料理との相性はアドバイスしますよ。なぜならパンだけで完結ではないから。おかずがあってご飯があるみたいなもんやからね。

人間の脳は、あまりに旨過ぎるものを食べると満腹に感じてしまうんです。だからパンを旨過ぎないようにするのがパン屋さんとレストランの違うところなんですよ。わざと塩を入れないでそっけなく作るパーネトスカーナなんてまさに、イタリアのパンと料理の関係を表してますよ。

イタリアで簡単に昼食をすませたいと思ったら屋台です。バラの花の形をしたロゼッタはパニーノのためにあるパンですが、それが山積みになったおでん屋のような屋台があります。ロゼッタを二つに割ってスープをビチャビチャにかけて肉を挟んでくれるんですが、固いパンが簡単につぶれるわけですよ。それに赤ワイン1杯で150円ほど。スープはおでんの出汁みたいだし、肉はトリッパか何かでやたら旨い。満腹にはなっていないけれど脳が旨味で満たされて、今日は食べたなって感じになるんです。

◇イタリアのパンと文化

イタリアのバールのパニーノは野菜もピクルスもなく生ハムだけを挟むんやけど、その枚数も薄さも完璧なバランスで、これがもう文化としか言いようがない。長年の感覚で決まっているんですね。職人には誇りがあって、鮨屋の大将と同じものを感じますね。

あと、レストランでお洒落やなぁ思うのは、片手にパンを持ち、片手にフォークを持ってしゃべる姿が格好いい人。ナイフを置いてフォークに持ち替えて、もう一方の手には常にパンを持って、ソースを拭ったりフォークを補助したりと、上手にパンを使って食べている人を見ると、ヨーロッパで暮らしていたのかなと思いますね。

◇パンを無駄にしない料理

イタリア人はパンが固くなっても捨てないですよ。それは文化なんです。日本でもパンを自分でアレンジして食べられるようになると食文化として定着してくると思いますよ。そのヒントはイタリア料理の中にありますね。絶対に無駄にしないということ。これはパン粉ごときの話やなくて、レストランにも家庭料理にもそういうメニューがありますね。

「パッパアルポモドーロ」はカチカチになったパンをトマトソースにでふやかした料理なんですけど、先月行ったイタリアではほぼ毎日食べてました。イタリアは空気が乾燥していてパンがすぐ固くなるんです。それをトマトソースでトロトロに炊く。具が入ると名前が変わって「リボリータ」。二度煮た、という意味になります。余ったミネストローネに余ったパンを入れるんです。ここに卵をポンと割ってオーブンで焼くと「アクアコッタ」になります。

京都のバールのヒットメニューは「モッツァレラインカロッツァ」。溶き卵に浸したパンにモツァレラチーズをのせて蓋をしたフライパンで蒸し焼きにして、サンドイッチにしてアンチョビバターをかけるんですよ。これだけでワインを2杯飲めますよ。「馬車に乗ったモツァレラ」という意味ですが、こういうものをいかにも高級な食べもののようにネーミングするのも、イタリア料理のおもしろいところですね。

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笹島保弘 /  イル ギオットーネ オーナーシェフ

1964年大阪生まれ。高校卒業後、サービスの世界に魅せられてレストラン業界に入る。その後、料理のおもしろさに目覚めて料理人に転向。88年「ラトゥール」(大阪)、91年 「ラヴィータ宝ヶ池」、 96年「イル・パッパラルド」(京都)で 料理長を務めた後、2002年、イタリアのように地産地消に積極的に取り組んだ京都発信のイタリアンを目指し、京都、八坂の塔の隣に「イル ギオットーネ」を 開業。05年には丸の内に2号店をオープン。京野菜をふんだんに使ったイタリアンで人気を博している。

(株式会社日清経営技術センター会報『NKCレーダーvol.68』掲載記事)

【前回の記事】
第34回 クリストフ・ヴァスール さん /  デュ・パン・エ・デ・ジデ オーナーシェフ

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